・私達がコミュニケーッションの手段として、言葉を使う時に最も注意しなければならないのが、この「 politically correct 」の問題です。次の、ある上司と部下の会話をご覧下さい。
上司:きみー。この計画書、片手落ちだよ。原価償却に関して、付随するコスト計算が
甘すぎるよ。
部下:どうもすみません。
・この会話を聞いた時に、「おやっ」と思った読者の方は、 politically correct に関して相当に感覚が鋭くなっていると言えます。上司が使った「片手落ち」という言葉は、将に politically correct の精神に反していると考えられている言葉であり、今では絶対に口にすることが出来ません。
・地元地方自治体が発行している、市報や区報等に丹念に目を通しますと、「障害者」という記述の相当部分が「障がい者」と、「がい」が平仮名で書かれていることに気づきます。これも「障がい者」は「害のある人間ではない」という politically correct の考え方から来ているものであり、これも時代の急速な変遷を実感させてくれる現象の一つでしょう。
・旧ソビエト連邦 (the former Soviet Union または the defunct Soviet Union も可 ) の大統領であったゴルバチョフ氏 (Mikhail Gorbachev) の頭部の様子は、皆さん方がご存知の通りですが、当時アメリカで仕事をしていたある日本人記者が、ゴルバチョフ氏に言及する際に “hair-challenged” と形容したのがきっかけで、「〜 -challenged 」という表現が一般化したといわれています。
・最近では、太っていらっしゃる方や身長に対して不満をもっていらっしゃる方を “vertically-challenged” と言っていますが、 vertically は「水直に」という意味ですので、「垂直方向にチャレンジしている」という表現に滑稽さを感じる人もいるのではないでしょうか。
・英語では全く問題ないものの、日本語レベルで politically correct の観点から公的に使用されなくなった代表格が「看護婦」でしょう。英語の nurse は全く性差別を感じさせない言葉であるのに対して、日本語の「婦」は明らかに性差別用語であるとして、 2002 年 3 月 1 日から正式に使用が控えられています。現在は「看護士」が一般的に使われていますね。
・病名変更の代表例として、「精神分裂病」があります。これは、日本精神神経学会が 2002 年 6 月 30 日に、差別偏見を生みやすい「精神分裂病」と言う語を「統合失調症」と改めました。なお、統合失調症は integration disorder syndrome または integration dysfunction syndrome といいます。
・ 2 回に亘って様々な politically correct に関する用語を見てきましたが、「マンホールも性差別用語だからパーソンホールにしないとダメだ」という極論さえ存在します。皆さん方はこの意見をどう思われますか。
それでは次回また、お会いしましょう。